EUのFarm to Fork Strategy(農場から食卓まで戦略)

今回は、EUの「Farm to Fork戦略」(F2F戦略)とイタリアの状況について紹介します。

Farm to Forkは、欧州委員会が「欧州グリーン・ディール」の一環として策定した、環境に配慮され健康的で持続可能な農業への転換のための2020~2030の10カ年計画で、EUにとって、生産から消費、流通まで、食料チェーン全体を網羅する対策と目標を盛り込んだ初めての食料政策です。

Farm to Forkは、農場から食卓まで、つまり「生産者から消費者まで」を意味し、より環境に優しい食品システムへの移行により農業食品事業者の収入にプラスの影響を与える新たなビジネスチャンスを生み出すだけでなく、消費者の選択やライフスタイルまでの意識向上を含めて農業移行を推進し、現在のEUの食料システムを持続可能なモデルへと転換することを目指しています。

Farm to Fork戦略において、かかげられている目標は次の通りです。(出典:欧州委員会ホームページconsilium.europa.eu)

  • 十分な量と手頃な価格で栄養価の高い食料を確保する
  • 農薬や肥料の使用と抗菌剤の販売を半減させる
  • 有機農業専用の土地の面積を増やす
  • より持続可能な食料消費と健康的な食生活を促進する
  • 食品ロスと廃棄を削減する
  • サプライチェーンにおける食品詐欺と闘う
  • 動物福祉の向上

この戦略の目標実現のため、共通農業政策(CAP)と共通漁業政策(CFP)の基金に加え、食品、バイオエコノミー、天然資源、農業、漁業、養殖、環境に関連する研究開発へのホライズン・ヨーロッパ・プログラムからからも約100億ユーロが研究・イノベーションのために充当されます。

では、具体的にはどのような行動計画が盛り込まれているのでしょうか?

一番よく知られているものは、「2030年までに有機農業生産を全農地面積の25%にまで増やす」という野心的な目標でしょう。ほかに、農薬や肥料の削減、食品の安全の分野において、下記のような行動計画が策定されています。

●欧州食料安全保障危機準備・対応メカニズム(EFSCM)の創設
●2030年までに総合的病害虫・雑草管理の総合的防御や農業機械、精密農業の技術を利用し化学農薬の使用とそのリスクを50%、最も有害な農薬の使用を50%削減し、健康的で高品質な食品を消費者へ提供する。
●革新的な技術と精密農業技術を活用した適切な施肥計画により、2030年までに土壌の日沃度の低下を防ぎ栄養素の損失を50%、肥料使用量を20%削減する。
●EUにおける植物性タンパク質の生産を増やし、飼料や栄養素の輸入を削減する。
●EUにおける畜産動物および水産養殖用の抗菌薬の総売上高を2030年までに50%削減する。
●競争力のある海洋および淡水養殖部門など養殖業の持続可能な発展を強化する。

ちなみに、日本人にはなじみ深い藻類は、持続可能な食料システムと世界の食料安全保障にとって重要な代替タンパク質源となることが期待されているそうです。

同時に、大気中の炭素を捕捉し、持続可能な方法で土壌またはバイオマスに貯留することに貢献する、農業土壌における炭素隔離と循環農業がFarm to Fork戦略中で奨励されています。
●農家が大気中の炭素隔離(カーボンファーミング)に対して、炭素市場システム(カーボンクレジット)を通じて報酬を受け取ることができる新たなグリーンビジネスモデルを構築する。
●何も廃棄せず、物質・エネルギーともにすべてを回収する循環型バイオエコノミーを構築する。
●家畜排泄物の嫌気性処理、再生可能エネルギーの生産など、循環型農業を創出する。

イタリアは、有機農業用の農地面積の拡大においてヨーロッパをリードしており、有機農業は利用農地面積の約20%、約250万ヘクタール(うち、58%がイタリア南部、25%は中部、18%は北部)に到達しており(2023年末時点)、Farm to Fork戦略が策定する通り2030年までに25%を達成できる見込みです。

Farm to Fork戦略で推進される農業移行の分野で、イタリア・日本の企業の技術の活躍に期待します。